J文学は死ね・最終回−山形vs福島(00.10.24)
前に「JポップはいいがJ文学は死ね」を書いたとき、読んでおかなくてはと思っ
た作家がいた。その時は彼の著書が書店の店頭になく、読めなかった。清野栄一氏で
ある。DJにして作家。私の中の「J文学」のイメージをこれほどまでに決定的に具現
化する肩書きはない。なぜならこの10年、私の中でもっともポップでオシャレでイ
ケてる職業というか肩書きはDJだからである。もちろん小劇場俳優などではない。
やっと彼の話題作「夜の果てのダンス」を書店に見つけ、読んだ。オシャレの最先
端を行く若者達(クラブキッズ?)のバリバリイケててちょっぴりリスキーなナイトライフが描写
されているのだと期待に胸を膨らませながら。
ところが、である。期待は完全に裏切られた。この作品にはオシャレなナイトライ
フなど全く出てこない。洋服をどこで買ってみたいな話も出てこない。モテモテ話も
ない。それどころか舞台はトウキョウでもロンドンでもシカゴでもデトロイトでもN
Yでもない。オーストラリアの広大な砂漠地帯や貧民にあふれかえる東南アジアだ。
そこで中年カップルが孤独を堪え忍び自然の厳しさ(例えばサソリや蟻)におびえつつ、自作のPAシステムを持ち回って朝となく夜となく踊り続ける過酷で生々しい話だ。そこには取り憑かれたような熱意があり、「こんな俺って『in』じゃ〜ん」みたいないやなクールさはない。
イヤな感じが少ないので逆にがっかりした。
これは、どういうことかというと、清野氏がクラブDJではなく、RAVEのDJ
だからだ。RAVEはTRF(テツヤ・コムロ・レイヴ・ファクトリー)のレイヴで
あり、クラブよりもワイルドで大雑把でおおらかなイベントだという印象がある。言及される音楽もガバやゴア・トランスなど、コアなテクノが中心で、アシッド・ジャ
ズやボサノバやフィリー・ソウルはない。冒頭には何とニック・ケイブの歌詞が引用
されている。あのダークでやるせないアンダーグラウンド・ロックを展開したバース
デイ・パーティーのニック・ケイブが!全然おしゃれじゃないよー!
そんなわけで清野氏の作品は、私の期待した「J文学」の「J」の真骨頂などでは
なく、誠実で適度にタイムリーな読み物であった。これが現代文学としてどうなのか
はよくわからないが。適度に好感がもててがっかり、というワケ分からない結果に終わる。
ところで、清野氏の作品がオシャレじゃないといっても、たとえばレイブにしても
、サザンとかミスチルとか聴いてる普通の人ほどはダサクないわけで、ある程度のセ
ンスのレベルは前提とした上で言っているのだ。大体今、クラブだってエッグ系、メ
ンズエッグ系のギャルやギャル男の巣になっているのが殆どで、もしかしたら統計的
にレイブの方がオシャレ度高いかも知れない。
ひとつ驚くべきことがあった。彼は1966年出身、私と同い年だ。そして、私と
同じ福島県出身だ。田舎の代名詞である東北の6県の中でももっとも教育水準が低く
、文化的に立ち後れていると言われる福島県だ。福島県のどの町の出身かはこの本には正確には書かれていない。だが、霊山の近くとかいう記述がある。霊山!伊達郡霊
山町なのか?私の育った福島市の隣の隣の町だ。あの辺なのか!だとしたら高校の学
区が同じだ。彼は18で東京に出てきたと書いているが、もし、それが大学入学とい
うことなら彼が私と同級生である可能性は非常に高い!霊山中学出身の知り合いもいた!かなりヤンキー度の高い地域で、卒業式にはお礼参りというか、イヤな先生をみ
んなで囲んでびびらせ、謝らせたりしたらしい。
とにかく私の育った福島市もしくはその周辺は非常にコアな田舎で、そんなところ
から彼のような文化的な人間が登場するのは奇跡だ。私の高校時代は80年代真っ盛
りだったが、YMOや戸川純を聴いてるぐらい人間は確かにいたが、本当のサブカル
な人間はいなかったような気がする。ジューシー・フルーツでも聴いてれば、周りと
自分を差別化出来るので、もう十分だ。ソフト・セルや23スキドゥーなど聴かないし(っていうか売ってない)、校内暴力全盛期なのでみんなだぼっとしたズボンをは
いていた。ヤンキーに変なバンカラ気質がブレンドされ、非常にワイルドな校風にな
っていたと思う。当時の自分にはとてもそれがイヤだった。
清野氏がどこの高校出身なのか今更調べようとする気も別に起きないが、あの環境
からあそこまで成り上がったのはスゴイことだ。だからクラブじゃなくてレイブが限界なんだと思う。
ところで、「夜の果てのダンス」を読む前はJ文学の騎手阿部和重氏のエッセイ「
アブストラクトなゆーわく」を読んでいた。今、もっともおしゃれな作家阿部氏がa
nanに連載していたコラムを一冊にまとめたものだ。文体に不思議なユーモアがあ
り、実は結構面白かった。「オランダせんべいはおいしい」みたいな山形ネタも満載
だ。「小泉今日子文学賞をつくれ」とか、「紅白に出たい」とか、「ディカプリオと
俺は顔が似ている」とか、ナメたことがいっぱい書かれている。ちょっとヤな感じなのがいいとおもう。anan読者を馬鹿にしているのではないかというフシもある。
良く読むと、黒沢清の映画が好きだったり、マキノ雅弘を敬愛していたり、結構嫌みな映画ファンだったりする事がわかるが、そういう面
は小出しにしているようだ。
彼は山形県出身。福島県の隣の県だ。方言も似ている。まんこのことをべっちょと
呼ぶ文化圏に属する。福島県に負けず劣らずダメな県の筈だ。彼も環境のハンデを克
服したのか?それとも、福島県ほど山形県はひどくないのか?そんなどうでもいいこ
とが気になったので今回の題名は福島県vs山形県!J文学ってカッペどうしの泥試合?いやいや、まさかそんなことはないでしょう。