no.91 ミュージカル映画って微妙だな (04.9.8)
ミュージカルと銘打った作品を発表し続けて10年にもなるが、実際のところミュージカルってそんな観たことない。俺の心の中の「ミュージカルってきっとこんな感じ」を信じて創っている。それで十分だろ。本物がどんなかなんて関係ない。でも、気にならないといえばウソになる。で、まとめていくつか観てみようと急に思い立った。まあ俺の中の 「ミュージカルってきっとこんな感じ」を揺るがない信念で強く信じこんでいるので、作品に何か影響を及ぼすこともないだろうがね。といっても舞台作品をチェックするのは大変だ。メジャー作品はチケットが簡単にとれないし、「お、今日は仕事が早く終わったから行ってみようか」みたいな調子では行けない。今やってる作品の数も限られてるしね。それで、自ずとビデオ屋のミュージカルコーナーに足を向けることになる。つまりミュージカル映画のひとり鑑賞会になってしまった。
そしたら、どれもこれも俺の期待を裏切る酷いものだった。それぞれ歌や踊りには見所があり、がんばっている。だが、ストーリーがちゃんとしてないものが多い。なんかストーリー盛り上がって感極まって歌い出すようなものを期待していたのだが、そういうものはほとんどない。ストーリーに盛り上がりなどない。ストーリーが好みじゃないとかつまらないとかいう以前にストーリーをちゃんと考えようと試みた形跡がない。名作なのにそれでいいのか?ってなシロモノばかりだ。歌や踊りも大事だが、バレエでもコンサートでもないんだからもう少し考えようよ。というのがおおかたの感想だ。え?信じられないって?そんなはずはないって?それじゃあ俺が何を観てどう思ったか具体的に述べることにしよう。
で、観た中で一番ちゃんとしてると思ったのが「ウェストサイドストーリー」だ。 冒頭2つのグループが入り乱れて街角で踊り狂ってるシーンから始まって、一体なんだと思ったら実は喧嘩をしているのだった。喧嘩をダンスで表現しているのだ。優勢になった!ボコられた!勝った!ヤラレタ!威嚇!不意打ち!等をいちいちポーズで表現していて実に下らない。食事しながらの鑑賞は危険だ。思わず食い物を口から吹き出すこと間違いない。しかも別 にふざけているわけでないのだからこれぞミュージカルの醍醐味といえよう。俺がミュージカルに求めている馬鹿馬鹿しさがここにある。しかもこの作品、着想がイイ。「ロミオとジュリエット」の現代版ってことなのだが、 名家同士(上流階級)の諍いが恋の障壁として立ちふさがるというシェークスピア作品を場末の不良同士の抗争に置き換えている。一方は被差別 移民であるプエルトリコ人不良グループ。上流階級を底辺層に反転させた「ロミオとジュリエット」。階級をネガに反転させるなんて実に悪意ある発想で素晴らしい。日本版を造るならヤンキーとチョン高の争いといったところか。こんな作品を少年隊がやっていいのだろうか(少年隊ファンはそんなこと考えもしないだろうけど)?そういうわけで個人的な好みの上でもこの作品は評価高い。
だが、例えば「アニー」。確かにストーリーはちゃんとある。それも明確で分かりやすく。だが、全体として言いたいことというか、テーマというか、感動の焦点をどこに置けばいいのか分からず、困惑する作品である。ストーリーを一言で言えば「子供がみるみる出世する話」。その出世のスピードが余りに速く、アニーのキャラ立ちのスピードを凌駕しているので感情移入の隙を与えない。最初はしんみりした孤児院のシーンとかあって「けなげだな〜」とか思うのだが、凄いスピードで金持ち達に気に入ってもらい、みるみる豊かになっていくので「なんかどうでもいいな」って気持ちになる。ルーズベルト大統領は立派な人でその前のフーバー大統領はダメ大統領という露骨な政治的言及も意図不明。確かに「ハードノック」という孤児院の子供達が歌い、アクロバティックに暴れまくるシーンは迫力がある。そういう個々のダンスシーンや歌で魅せるという作品なのだろうか?ミュージカルってそれでいいのだろうか?
だが、「アニー」などはまだましな方で以下に言及する作品は、「メタミュージカル」としか言いようのない作品である。「メタミュージカル」などというと逆になにやら凄そうだが、何のことはない。作者が設定を構想したり世界観を構築する作業を放棄してミュージカル自体を巡って延々話が展開する(あるいは展開しない)タイプのものである。私小説とか言われる類の小説で作家が「次の作品どうしようかな」と悩んでるだけの小説があったらあなたは読んでみたいだろうか?そんな感じのシロモノだ。踊りと歌という武器があるから他はどうでもいいのだろうか?
まず、何故かシルベスター・スタローンそっくりのジョン・トラボルタが主演の「ステイン・アライブ」。いや、ジョン・トラボルタはスタローンになんか似てないのかも知れない、本当は。頭もじゃもじゃでタレ目な人がバンダナしてタンクトップ着てると同じに見えてしまうのは俺が外人を見慣れてないから。実際洋画を観ると悩みどころはそこだ。ヒロインも2人出てくるのだが、どっちだか分からないときがある。でも、そんなことはまあいいだろう。
どういう話かというとトラボルタは質の悪いスケコマシだ、という話です。とにかくセックスが大好きで勢いのままに女との約束をどんどん取り付け、平気でダブルブッキングし、その場の気分ですっぽかす。そのくせ嫉妬深く、女の側の好き勝手は認めないと言う最低のエゴイスト。最終的には元々の彼女がやっぱりよかったという結論に達するがなんか後味悪い。
で、どこにミュージカルシーンがあるのかというと、トラボルタがミュージカルのオーディションを受けまくり、主役の座を射止める過程がストーリーの主軸なので、稽古場や劇場で踊るのです。ミュージカル内ミュージカルです。踊るの当たり前だろ?なんかこの映画稽古場と劇場とベッドシーンしか出てこないような。
とにかく、主役を射止めてよかったねという話なんだけどトラボルタが質の悪いスケコマシなんで応援する気になれない。稽古場で踊るのをミュージカル作品と呼んでいいのか?
だが、ビデオ屋のミュージカルコーナーにある有名な作品にはそういうのが多い。延々稽古場とか、延々オーディションとか。受かってよかったねとか、主役はだれとか。題材自体がミュージカルを巡って展開する。世界が広がっていかないのだ。
「フェーム」もひどい。いや、ひどいっていうか、謎度が高い映画だ。主役なんかいない。何も展開しない。やはりオーディションから始まる。今度はミュージカルの学校が舞台だ。だから踊る。レッスンシーンとかで。レッスンシーンで踊るものをミュージカル作品と称していいのだろうか?いろんな人の断片的なエピソードが時系列に沿って羅列されるが、エピソード間のつながりはない。つまり、本筋というものがない。もしかしたら誰が主役と言うより、いろんな人を並列に描いて青春群像みたいな感じを出したかったのかも知れない。みんなそれぞれに自分の悩みやら抱えてがんばってるんだ!みたいなね。しかし、登場人物達が不気味な人ばっかりで「青春」の二文字が胸に去来することは決してないのだ。キャラ立てるにもとにかく味ありすぎで共感したり応援したりする気分に全くなれない。ちなみにかっこいい人とかそういうのは全く出てこない。もしかしてそれが見所?だったらポリスアカデミーみたいなギャグものにして欲しい。人をシリアスな気分にさせない雰囲気の人たちばかりなのだから。とにかく何を目指した結果 こういう映画が出来上がるのか謎だ。ミュージカル映画のコーナーにあったが、ミュージカルじゃないのかも知れない。じゃ、何なのかというと、分かんない。誰かアイドル的な人のプロモーションなのかも。
極めつけは曲がビールのCM(モルツ?)で有名な「コーラスライン」。何と全編ひたすら一本のオーディションである。オーディションで、どんどん人が落ちていくだけの映画。で、ラストシーンは受かった何人かで本番。でも「コーラスライン」なので群舞のシーンだけ。そして、やはり落ちないで残るのはやはり変な人だらけ(オーディション中ずっといちゃつき続けるアツアツのカップルとか)。主役はいない。ドラマ的なものは一切展開しない。ただ、オーディションの課題で身の上話をしろみたいなのがあり、複雑な家庭事情の人とかいて、そのディープな身の上話でちょっと盛り上がる。セリフの内容で。映像はないよ。
芝居じゃん!
しかも、何でもかんでもセリフで想像しろっていうもっともダメなパターンの。
で、みんな踊る。ダンスのオーディションだからね。ピンキーとキラーズみたいな感じの山高帽かぶってやるやつ。いつの話なんだ(外のシーンがないので時代設定がわからない)?
で、さらに観たのが「キス・ミー・ケイト」。女が2人なんか仲悪そうだな。
ああ! またヒロインが誰とか、そういう話だよ。
例によって舞台は文字通りの舞台に変わって映画内ミュージカル芝居。
この辺でもはやちゃんと見ようという気が失せる。
で、観てる途中でギャングみたいなのが出てきたり多少世界の広がりはあるようだが、もうどうでもよくなる。
で、「シンギング・イン・ザ・レイン」。
今度はさすがに舞台とかオーディションの話ではないようだ。
じゃあ、どういう話かというと、無声映画時代末期の話で、映画がトーキーになるので今までの有名女優は変な声なので女優を変えましょうって話。今度は映画かよ!
また楽屋裏の話かよ!
サブキャラ(主役の友人)の顔芸交えたコミカルかつアクロバッティックなダンスは素晴らしく、この映画のメインである雨に歌うシーン(喜びのあまり、気が動転して、傘を放り出し、滝のようにざばざば水が落ちている雨どいに頭突っ込んだり、正気とは思えないことをつぎつぎを行う)はやはり面
白い。確かに。決して映画自体は退屈でなく、楽しめた。
だが、ストーリーはたわいなさすぎで退屈だ。この企画がミュージカルじゃなくてこの内容のまま歌と踊りを抜いたら見るに耐えない。
しかし、これはどういうことだろう。ビデオ屋のミュージカルコーナーにある名作と呼ばれる作品はほとんどが楽屋裏話。オーディションやら主役争いやらが題材の中心におかれている「ミュージカルをめぐるミュージカル」だったのだ。
それでいいのか?ミュージカル。
もっとさあアツく胸をえぐるような人間ドラマ+歌、ダンスみたいなのはないのかよ!
まだ有名作品を全部観てないのでもう少し観てみるけど・・・