現在J-POPといえば男はビジュアル系、女はR&B。どちらも低所得者層に支持されるネオ・ヤンキー文化だ。ビジュアル系の人たちが本気で「聴ける音楽」を追求しているなんて誰も思っていないし、R&Bに関してはアメリカのヒット・チャートに頻繁に現れるダサダサブラコン(支持層はアイダホ州やアイオワ州の農村の人たち)をいかにもそれっぽくコピーした物を「洋楽っぽい!」とかいってありがたがっているに過ぎない。ビジュアル系についても語りたいことがいっぱいあるが(もちろん彼らの音楽についてではなく、まさに彼らがかっこいいと思ってやっているそのビジュアルについて)、ここでは次々に現れ、日本の音楽シーンを埋め尽くそうとしているR&B系アーチストについて語りたい。
そういう訳で7月12日渋谷のHMVに行ってJ-POPコーナーを物色。だが・・・買えない!・・・ミーシャ、宇多田ヒカルは買えない。サブカルなんて糞喰らえ。大衆文化のみを愛してやると決心している筈の俺にも、まだチンケなプライドが残っているのか!TVでミーシャ、宇多田ヒカルが出ればチャンネルを替えずに最後までみる。だが、CDは買えない!俺のCD棚にミーシャとか宇多田ヒカルとか並んでいる光景が脳裏をかすめると、彼女達のCDに手が伸びない。そういう訳で一番売れている2大ブラコン巨頭に関して、購入を断念してしまう。
UA、charaに関してはただの黒人音楽の和製コピーの枠を超え、テクノ、昭和歌謡、オルタナ系ロック、ラテンなどの要素も含んでいたりして、「かつて存在し、今は廃れてしまった渋谷系、サバービア系と呼ばれる音楽程にはステイタス高めではないが、サブカル系の人が恥ずかしくなく聴ける程度にはお洒落」という感じで認知されている物と判断し、購入対象から外す。
それでも、J-R&Bの層は厚く、tina、bird、露崎春女、aco、silvaとかまだまだいる。その中から、remix誌の表紙にもなったsugar soul、パンチラアクションビデオ「天然少女萬」の挿入歌を歌っていた嶋野百恵、片方がクモ膜下出血で突然死してしまったため、コンビの解消を余儀なくされた呪われた姉妹デュオ、doubleを購入。
感想は後日。
sugar soul/on
嶋野百恵/531
double/crystal
「J-R&Bの感想は後日」と、かつて書いていたが、J-R&Bを聴いて最も印象づけられたのはR&Bがどうこうというより各アルバムに必ず一曲は入っているラップ入りの曲の救いようもないダサさだ。とにかくイケてない。というか恥ずかしい。ヒップホップって一番イケてるジャンルじゃなかったの?歌姫とは別にゲストラッパーがフィーチャーされていることが多い。HIP-HOP界の事は詳しくないのでよく分からないが、おそらく、それなりにクラブ界で名をなしてる人たちの筈である。その辺のド素人ではない筈である。ではいったいこれはどういう事か?とりあえず具体的にその恥ずかしいライムを紹介してみよう。
BIRD「BIRD」6曲目「REALIZE」
「空の扉」がヒット中のBIRD。モンドロッソの大沢伸一プロデュース作品であり、かなりお洒落度は高い筈だ。SUIKENとDEV LARGEというラッパーをフィーチャーしている。バックのインストとBIRDのスキャットから始まる。この辺はそれなりにクールでかっこいい。
限りない可能性を持つバード!
高鳴るビートで飛び越せガード!
様々なフアン(不安)
シアン(思案)
シュワン(手腕?)
をノミコメ(飲み込め)!
言葉に溢れてく気持ちをコメ(込め)!
ウワベ(上辺)
だけの歌声が奏でるシラベニ(調べに)!
クラベ(比べ)
られずにマナベ(学べ)!
バードは君に真実の
音を現実に
映し出す
現代詩のような変な改行になったのは、韻を踏む事のダサさを感じて貰おうと思ったからだ。これはバード自らによるライムだ。自分で自分を「限りない可能性を持つ」などと励ましている。まるで金八先生だ。「飛び越せガード」まるで尾崎豊だ。
音楽の枠 軽く飛び越す
マイク!色あせない ?(歌詞聞き取れず)
音楽の枠 軽く飛び越す
トラック! 眠った音呼び起こす
ここがサビだ。やたら勇ましい。意味不明に勇ましい。続いてゲストラッパーのライム。
俺で間違いねえ スタンバイOK
10ポイントダイヤの一番遠くへ
届け 未来の声 本当の音だけ
歴史は変わる 慌てないで急げ
瞑想 出かける大草原
意識の冒険
2000年 夢の主役は SUIKEN
(中略)
さらにバードが「7色の翼を手にいれるよ」とかクサイ台詞を吐き、またゲストラッパーが「お気楽極楽気分は自宅」とかなんとか言い、「落ちつけ!リラックス!追いつけ!5年遅いぞ」とか東京に向かって命令し、サビで終わる。嘘のような話だが本当なのだ。
DOUBLE「CRYSTAL」11曲目「SHAKE」
DRAGON ASHの一番売れた曲「GLATERUL DAYS」にも参加している多分カリスマラッパーのZEEBRAがフィーチャーされている。バードの奴みたいに青クサイ励ましはないが、今度は情けない都会人気取りが笑える。
夜のヤミー(闇)
うす暗く光るライトのみアビー(浴び)
クラブに群がる人のナミー(波)
かきわけてくぜ ついてきなHONEY
そんなに斜に 構えずにJAMMIN’
(中略)
万券・シャンペンいくらでもあり
熱さはバリ ムードならパリ
まず、「闇」「浴び」「波」の韻踏み攻撃。アンリの「街はきらめくパッション・ブルー」を彷彿とさせるアーバンな描写だ。「ついてきなハニー」もなかなかクサくて素敵だ。「ムードならパリ」って本気だろうか。
ジブラ・ライム・アニマル ヤバめMC
上の「アーバンな」ライムのどこがヤバいのかさっぱり分からないが、とりあえず必ず入る「俺」紹介。とても空虚だ。
SUGAR SOUL「ON」6曲目 「HO-ON〜女神のうた〜」
R&Bの歌姫はみんな性格の悪そうな顔が特徴だが、SILVAとこのシュガーソウルはダントツだ(しかも和顔)。ヒット中のドラゴンアッシュとのやつ(後ろのストリング・アレンジはかっこいいと思う)も気になるが、とりあえずこれはアルバム中の一曲。 SKYWALKERという人がフィーチャーされている。どうやら関西人らしい。かなりアッパーなMCをやる。ジブラのような勘違いな気取りはなく、かなりコミカルな印象をのこす。
シュガーソウルことアイコー(AIKO)
こいつが歌えばサイコー(最高)
一度聴いたらサイゴー(最後)
マジにとりつかれてもうマイゴー(迷子)
まるでマイゾー(埋蔵)
されたザイホー(財宝)
ほじくって元気バイゾー(倍増)
こりゃヤバイゾウー
もっとウエイコー(上行こう)
相当下らないが、お洒落にやろうという気が全くないようなので意外と許せる気になる。「おれらゼンゼン 踊りたらヘンネン」という関西弁の利を生かした韻の踏み方も結構可愛いではないか。ダサダサラップとかっこつけたボーカルが一番バランスよくせめぎあっていると思う。
と、聴いた3曲は日本ヒップホップ界のほんの氷山の一角を除いたに過ぎないわけだが、とりあえず、次のような結論はだせるような気がする。すばわち
どうしてこうなってしまうのかというと、そこには明治以降の近代日本が抱えてきた問題が含まれているように感じてならない。つまり、輸入文化とどう接するかという問題だ。かの文豪夏目漱石や森鴎外の時代からあったことだ。ヒップホップというかっこいい文化があったとする。それを日本人である自分がやろうと思ったとする。日本語でやろうと思ったとする。ヒップホップを聴いて研究しているうちにいくつかの法則性に気づくだろう。1.詞(ライム)が韻を踏んだいる。2.強力なメッセージがある。3.「俺ってスーパースター」みたいな自信たっぷりのことを言う。そして、それらの研究の成果をいかしてやってみた結果がこれなのだ。実に貧しい結果に終わっていると思う。どうしてこうなったかというと、ヒップホップをやろうという人がだいたいヤンキーで、日本語というものに余り自覚的でないことによると思う。向こうではああいうふうにやった。だから日本語でもそのままその通りにやればいいんだという単純な思考法しかない。すると1.日本語では古来から韻を踏む文化(七五調の古典文学)があり、日本語自体韻を踏み安く出来ている(駄洒落)。それらはものすごくベタでかっこ悪いが、ほっとくとそこに引き寄せられてしまう。2.3.黒人のようにぎりぎりの状況で生きてる人間が放つこそメッセージに切実感がともなうので、ただ中流の日本人がやると、ただの説教オヤジのたわごとにしか聴こえない。何の重みもない。以上の理由で妙に和風で情けないライムが出来上がってしまう。日本語でのかっこいいラップは不可能なのだろうか。スチャダラのようなただだらだらしゃべってるのも利口な一つのやり方だとは思うが、個人的には気に入らない。コアなラップはまだ聴いたことがないので、ここでは結論は出せない。私個人はストリートな人間ではないが、日本にはストリート文化などないのではないかという気さえしてきて非常に心配だ。始めからお洒落度など問題にせずにやっている筈のglobeのマークのラップやモーニング娘。のラップの方がダサさが少ないような気さえするではないか。まじめにかっこよさを掘り下げてる人間がバカを見ている不思議な現象は実に興味深い。
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