no.80 味わい深い演歌の題名 (03.4.24)
「ちょっぴりスパイシー」の公演で使用し、CDにも収録されている曲「悲しみ列島日本人」のタイトルは、森昌子の「悲しみ本線日本海」のパロディーだ・・・ってそんなこと言うまでもないよな。
何でネタにしたかというと、「悲しみ本線日本海」という曲名が長いこと引っかかっていたからだよ。味わい深いタイトルだよな。日本海にもビキニの姉ちゃんがうろつく海水浴場やサーフィンやボディ・ボード(廃れた?)やウィンド・サーフィン(完全に廃れた?)でにぎわう海岸も多少はあるものだろうに(未調査)、演歌のタイトルで「日本海」とか聞くといつもビュービュー吹雪吹いてて荒波ザブーンで夜汽車がポーとか汽笛を鳴らしてて沖には漁り火がともっているような錯覚に陥るな。しかし、それは全く根拠のない錯覚とは言い難く、いろんな地方を回る仕事を長いこと続けているが、日本海側には未だに民放が2局しかない県、県庁所在地に大手都銀がほとんど進出してない県、県庁所在地の市街地でファックスを備えたコンビニを探すのに1時間もかかった県
が当たり前のように存在し、なかなか侮れない。
まあそんなわけで、演歌のタイトルには地名がつきもの。聞いただけでイメージが広がるようないい地名の選択が曲の成功の鍵をにぎっているワケだが、問題は誰もが知っててロマンをも感じるような地名が無限にあるわけではないということだ。しかも、演歌はもう何十年もスタイルの変更のない伝統化したジャンルであり、さらに今後何十年も続いていかなくてはならない。そして、Jポップ以上の厚い層を持っている(特に裾野が広い)。
似たり寄ったりの新しい曲を無限大に作り続けなくてはならない。作り手としては楽なのだろうか?苦しいのだろうか?ついついどうでもいいような地名をタイトルに盛り込んだりしてしまわないのだろうか?
最初に違和感を感じたのはサブちゃんの「風雪流れ旅」だ。これは前奏でSE代わりに津軽じょんがら節の三味線演奏がかき鳴らされ、
しかもそれはあくまでもSEなので、それと全くコードもリズムもかみ合わない形でストリングス主体の重厚な本イントロがかぶさり、前衛現代音楽でも滅多に聴けないような強烈な不協和音となって聴くものの脳に突き刺さってくるすさまじい曲だが、
サビの締めくくりに「留萌〜稚内〜」とただひたすら地名が連呼される。まあ「流れ旅」してるんだから、それで何の問題もないんだけど、「留萌〜」とか言われると(「稚内」はまだいい)なんか天気予報みたいだなと言う気になる。地名の選択には細心の配慮が必要なはずなのにどこかアバウトにやっている感じがするのだ。
「峠」「海峡」「岬」とかつくとなんか日本人の情感に訴える響きを帯びてくるね。演歌のタイトルの王道といえよう。しかし、「能登半島」(石川さゆり)とかいうと「おいおい、半島はないだろう、半島は」ってツッコミ入れたくなる。「半島」という地質学的な響きを持つワードがロマンを感じる余地を与えない。でかいしね、能登半島。「岬」や「峠」と違ってイメージできる特有の光景がない。実際能登半島に行ってもありふれた日常的風景が展開されているだけだろう。しかし、演歌の支持層は高齢化しており、頭蓋の中では青年期より大幅に有効体積を縮めた脳が髄液の中でぷかぷかしているような人たちなので、「なんか変だな」ぐらいには感じても、「おい、それ変じゃないか?」なんて積極的につっこむ人は誰もいないのだ。
「半島」は調べてみると意外に定番のようで、 「丹後半島」(坂本冬美)「積丹半島」(天童よしみ)「志摩半島」(鳥羽一郎)などがある。個人的には演歌のタイトルとしてどうも引っかかるんだけど、私だけなんだろうか?半島がいいんなら「盆地」「湿原」「諸島」「火山帯」「山地」「国立公園」だっていいんじゃないかという気がするが、そうではないようだ。
と、思ってたら「諸島」があった。「
憧れの伊豆諸島」(シャルダン貴本)。「憧れのハワイ航路」をもじってるんだろうけど、「諸島」が「ハワイ航路」→「伊豆諸島」のスケールダウン感を強調していて何とも味わい深い。
では、「峠」「海峡」とかならいいのかというと、「凧あげ峠」(新沼謙治)
は問題あるんじゃないだろうか?ちゃんと聴いてないので分からないけど、「凧あげ峠」なる峠を背景にどんな演歌的シチュエーションが展開されているのか、想像も出来ない。新沼謙治には「厚田村」というタイトルの曲もあるようだ。一言地名もかなり微妙である。いや、「厚田」ならまだいいんだろうけど。「厚田村」って言ってしまうと、それは地方自治体名ではないか。「○○市」と言ってるのと同じだ。そんなタイトルでいいんだろうか?
では、「○○市」ではなく、普通に地名なら違和感ないのかというと、かなり繊細な選択が求められると思う。「札幌」とか「大阪」とか、地名を聞くだけでなんかありそうな気がする場合はいいが。「苫小牧」(天童よしみ)とか言われても、何回か行ったことあるから知ってるが、普通
の市だよ。無味乾燥過ぎないだろうか?「 牛久賛歌」(藤 花恵)ってのもあるが、牛久を賛美してどうするって感じだ。それからまた、自分の出身地なので知っているので「阿武隈川」(いわき一郎)とか聞くとどっかの校歌じゃないんだかから阿武隈川なんてやめなよ、と、よけいなお節介を焼きたくなる。
それから、日本海側や北国にこだわるのはいいが、「北緯五十度」
(細川たかし)とかになるともう日本ではなく、北方領土ですらなく、カムチャッカ半島、アリューシャン列島にほど近い。凄く寒そうだが、そんなに北でいいのだろうか?せめて、「北緯四十五度」(鳥羽一郎)ぐらいにしておけばよかったのではないか?そんなロシア民族しか住んでいない場所にどんな演歌的シチュエーションが展開されているというのか?歌の内容を確認したいところだ。そこまで北ではないが、宮哲也という歌手には「クナシリへかえりたい」という曲がある。国後島が故郷なんて、ロシア人なのだろうか?
地名ではないが、「山」の次は「谷」その次は「川」と、一言地形シリーズを打ち出して、『次は何だろう?「沢」かな?「沼」かな?「麓(ふもと)」もいいな』と、わくわくさせてくれたのに、「竹」になって地形ではなくなり、そのままシリーズを終わらせてがっかりさせてくれたサブちゃんだが、「十和田湖」ってのもちょっと引っかかる。確かに景勝地だから問題ないんだろうけど・・・じゃあ「
奥多摩湖」(賀川じゅん)は?
それでは「海峡」はいいとして、「水道」ってのはどうなんだろうか?地図本とか見ると「○○水道」とかよく書いてある。自分の育った場所には余りないので、例えば地元の人たちが「水道」って言葉にどれだけ慣れ親しんでいるのか、見当もつかないのだ。「豊後水道」(川中美幸)とか「尾道水道」(水森かおり)とか、あるようだが。
「三陸海岸」(岩崎耕平)はどうだろう。東北の天気予報ではよく、「三陸沖では・・・」みたいな言い方をするが、三陸とは陸中、陸前、陸後の地形も風景も気候も県も違う三つ並んだ海岸線の総称であり、そのまま題名にするにはちょっと不思議な感じがするのだが、これは東北出身にしか分からないだろう。
その他調べる過程で引っかかった地名入りタイトルを並べてみる。
●七五調(演歌の基本だね)
「なみだ本線ひとり旅」(坂本冬美) 本線は地名でないが、まあいいだろう。何かに似ているね。
「 女泣き砂日本海」(川中美幸) コレも似ているね。
「 哀愁特急・日本海」(秋山涼子)
おいおい、いいのかよ。秋山涼子には、「木曽の御岳・岳次郎」ってのもある。そういう歌手なのか?
●砂丘
「鳥取・砂丘・風の人」(鶴岡雅義と東京ロマンチカ)どんな歌なのか気になる。
「女の砂丘」(森村まり)これも気になる。
●首都圏
「ザ・下町」(秋山涼子)また秋山涼子だ。コミックシンガーなのだろうか?
「はばたく彩の国」(千羽優希)埼玉っていいよね。
「 関東小金井仁義」 (藤 健一 )小金井のヤクザってどんなんかな?
「AKASAKAたぬき村」(ハヤト)???
●その他
「ひとり浜名湖」(八島ひろみ)別に変じゃないって言えば変じゃないんだけど・・・
「 広島天国」(南 一誠)???