no.93 ジャンプ出身愛国者バトル (04.10.11)
少年ジャンプを読み始めて30年になる。「東大一直線」時代の小林よしのりはわりと好きだったなあ。その頃、本宮ひろ志は「おおぼら一代」が終わって「さわやか万太郎」に変わる頃か。こちらは読み飛ばしてたなあ。今でもあまり好きじゃない。原哲夫、武論尊、中島徳博、森田まさのり、宮下あきら・・・ジャンプを特徴づける「男臭い」マンガは基本的に好きなんだけど、「男らしい」「男気強い」マンガは好きじゃないってことか?微妙な差だな。と、いうわけで25年ぐらい前は右よりな2人の漫画家が仲良くひとつの雑誌に同居してたってことだ。といっても小林が愛国者ぶりを強めるのはつい最近、90年代以降のことだし、本宮に関しては明確な右よりな思想表明は確認されない。ただ、何となく野球部っぽいっていうか、封建主義っぽいっていうか、イメージだね。ジャンプでの活躍時期が重なってるので面
識もあるだろう。仲いいのだろうか?
だが、21世紀に入った今頃になってこの2人はっきり袂を分かつことになる事件が勃発した。「事件」だなんて大げさかな?小林側からの反応はいまのところない。あの作品が発表されてまだ間がないから。でもきっとネタにするだろう。今彼が連載してるのは「サピオ」だっけ?
きっとその辺で。
何のことを言ってるのかというと、現在「ヤングジャンプ」誌上で本宮氏が連載している「国が燃える」という作品でいわゆる南京大虐殺の描写
があったのだ。これが2ちゃんねるやらはてなやらで大反響!どんな感じかというと、こんな感じ→http://sakura777.web.infoseek.co.jp/motomiya-shuueisha.html
で、大反響というのも主に非難。「ねつ造だと結論づけられている南京虐殺事件をさも事実のように描くとは何事か」というもの。え?結論づけられていたの?いつの間に?歴史上の常識だと思ってたのに、知らない間に常識が覆されていた!
で、その常識を覆す「虐殺ねつ造説」の中心を担っているのが、藤岡信勝らの「新しい歴史教科書をつくる会」「自由主義史観研究会」といった方々、あとその支持者。「ゴーマニズム宣言」がSPA!からSAPIOに移動するあたりからの小林もこれの有力な支持者として貢献し、「戦争論」などはその路線の主張で書かれている。
あと、竹内義和ってのもいるな。かつて彼が「赤いシリーズ」や「スチュワーデス物語」やらを徹底的に分析して書いた「大映テレビの研究」は当時の私に大いなる感動と笑いをもたらしたものだが、いつから憂国の人になったのだろう?とても同じ人と思えないんだけど。同姓同名?
ところで「虐殺はなかった」などと聞くと当然思い出すのが、「マルコポーロ事件」。なんとこちらは「ガス室はなかった」などと主張。掲載雑誌が廃刊になってしまった。ナチの虐殺は否定すると非難で雑誌がなくなり、南京虐殺に関しては肯定すると非難が殺到する。どうやらそういう国のようだ。日本は。
先ほどのリンクだが、「メールの抗議を集英社に!」とのことだが実際
編集部に会いに行ったり→http://www.enpitu.ne.jp/usr9/bin/day?id=98044&pg=20041004
電話したり→http://www.k2.dion.ne.jp/~charge/heieki/kunigamoeru.html
集英社にデモ行ったり→http://www.ch-sakura.jp/bbs_thread.php?ID=68803&GENRE=sougou
とかなかなか盛んなようだ。集英社もてんてこまいなのでは? ところで著作権などおかまいなしにマンガをまるごとスキャンして張り付けている前出http://sakura777.web.infoseek.co.jp/motomiya-shuueisha.htmlのトップページはhttp://sakura777.web.infoseek.co.jp/
「日本再生ニュース」だって。桜魂ってのをクリックすると桜魂 サムライ情報ってとこに飛ぶ。なんだか分からないけど下手なこと書くと日本刀で斬りつけられそうなページだぜ。
次に編集部に会いに行ったというhttp://www.enpitu.ne.jp/usr9/bin/day?id=98044&pg=20041004のトップページは
http://www.inubushi.cc/ 議員さんだね。あ、結構フツーかな?でもプロフィール見ると自衛隊学校出てる。あ、今でも予備自衛官だって。長男も自衛隊だ。忠君愛国ファミリーだね。
続いて http://www.ch-sakura.jp/bbs_thread.php?ID=68803&GENRE=sougouはチャンネル桜ってとこの掲示板だ。トップはhttp://www.ch-sakura.jp/index.phpスカパーのチャンネルらしいが、初めて知った。政経維新塾の塾長の話やら渡辺昇一の講演やら聴けるらしい。あと、我々もなじみが深い(?)靖国神社の桜も見れるらしい。自衛隊応援ページもあるよ。
他にもいろいろ「本宮ひろ志 南京」とかでググって非難しているページを片っ端から見ていったがトップページに行くと日の丸がはためいていたり、「自衛隊にトマホークを」と主張されていたり、「国益」とか「皇軍」とか「英霊」とかいった単語が乱れ飛び、どれもこれも強力な「愛国精神」を放つ「ケンペーくん」か鳥肌実のパロディみたいなサイトばかりだが、こちらこそが本物、マジなのだ。
そんなわけで、本宮ひろ志問題とは、右翼が右翼を叱る運動−
このヤロー。仲間だと思ってたのに、裏切りやがって!神聖なる皇軍のことを悪くかきやがって!石坂啓がやるならともかく、お前がやるのは許せん!
という同志への失望の表明なのである。
しかしながら、例えば探偵ファイルにおいてもhttp://www.tanteifile.com/diary/2004/10/02_01/index.htmlというように「つくる会」よりの検証がなされ、 また、それが悪徳商法マニアックス内の掲示板でも
[22275]本宮ひろし by.ばるんが 2004年10月03日(日) 14時38分■ は、自衛隊出身だそうです。 だからなんだと言われても・・。まあ、既に老害とは言われていましたが。
[22274]バカだわな。 by.「え」 2004年10月03日(日) 14時01分■ >ヤングジャンプを見たけど、やっぱりこういうことになってきましたな。 >http://www.tanteifile.com/diary/index4.html 本宮ひろしって、確かアシスタントに丸投げだと思ってたけど、ここまでバカだとは思わなかったなぁ。 参考:[22273]
掲示板とはいえ、誰も意義をはさむものがいない。悪党商法マニアックスも右よりだったのか?この辺の人たちまでが小林側に立ってるのは意外である。「つくる会」の影響力はもはや「右側」をはみ出し始めているのだろうか?
ではその「つくる会」ってどんな会か?というとこんな感じhttp://www.jiyuu-shikan.org/。
日本は北朝鮮、韓国に謝罪する必要などなくむしろ植民地支配は良心的なものだったので感謝して欲しい。
東南アジアでも日本は良心的に振る舞い、各国が独立できたのは日本のおかげ。
大戦前の日本がファシズムだったというのはウソ。
七三一部隊も残酷なことはしていない。
尊皇精神は江戸時代よりずっと以前から庶民感情の仲に一貫して息づいていた。
等ビックリ仰天な主張の数々である。
まあ、私は歴史学者ではないのでこれに反論する術をもってないが、とりあえず最後のは絶対に間違いだと思う。渋谷のギャルが日本の総理大臣の名前を訊かれても答えられない以上に無知蒙昧なかつての農民は天皇の存在すら知らないで生きた筈。どうして分かるのか?俺の中に流れる下層貧民の血(ムラからクニへの時代から一貫して下層貧民)がそう訴えるのだ。まあそれ以前に「もっと祖国に誇りを」みたいなメッセージがことあるごとに挿入され、文の端々からも匂うので史料の解釈の正当性を考察する気にもならない。ではこの「つくる会」の主張に対抗すべく、別 な角度で考察してみよう。「虐殺はなかった」といえば、「ガス室はなかった」というマルコポーロ事件であるが、これをもう少し調べてみる。この主張をしているのは、西岡昌紀、木村愛二http://www.jca.apc.org/~altmedka/と言った人たち。といっても日本オリジナルの主張ではない。元ネタをたどると、ロベール・フォリソン、ラシニエといった人物、カルフォルニアの「歴史評論研究所」、「リバティ・ロビー」、フランスのポール・フォール派、リバティ・ロビーなどといった人種主義団体、極右組織、ネオナチ団体の主張が原典であることが分かる。この辺は「ロックフェラー財閥といったユダヤ系資本が裏で世界を動かしている」といった陰謀論ともつながっており、矢追純一や飛鳥昭雄、宇野正美、太田龍などのUFO本の元ネタとも人脈的に近い。トンデモ本といえども電波を浴びた(発病した)人が突発的にオリジナルの妄想を紡ぎ出すわけではなく、背後にイデオロギー的系譜があるようだ。
さて、こうしてみると、「南京虐殺なかった派」というのは、「アウシュビッツなかった派」を模倣したものと思えてくる。ジャパン右翼が欧米右翼の手法を模倣したのだ。本当の右翼なら「南京虐殺は正しかった。シナ人の虫けらなど殺されて当然。またやりたい」ぐらい言って欲しいものだ。っていうか、本音としてはそのくらいの意識を本当に持ってそうだが、そんなことを今時いいだそうものなら、ますます市民の反感を買い、活動が先細っていく危機感から「皇軍は占領地でも紳士的にふるまった。教科書に書かれている残酷な行為などねつ造だ」との主張に切り替えたと言うことだろう。と学会の山本弘などが、わざわざトンデモ本としては笑える度が低い小林よしのりの著書をとりあげ、ツッコミを入れまくるのもUFO系トンデモ本の思想的系譜とつくる会に共通 の匂いを感じ取ってのことであろう。
こんな風に書くと「お前はサヨクなのか?」と逆に言われそうだが、私有財産制を廃したら完全平等のバラ色の未来が来るなんて到底実感できない。つくる作品とか階級闘争って感じでプロレタリアの味方に見られそうだけど、プロレタリア独裁なんてありえないでしょ。救われないことを前提で階級の問題を扱っている。だからのでどちらかといえば保守派なんだと思う。ただ、愛国心ゼロなだけ。だいたい愛国心って何?国なんか愛してどうするの?まあ海外旅行とか興味ないし、一生日本で暮らしていくだろうから、それって日本が好きってことなのかも知れないけど、別 に愛はないね。誇りもない。ただし、明日から中国語が強制されたら辛いだろうなとは思う。そのくらいが普通 の庶民の感覚だと思う。
そんな庶民の一般的な感覚に基づいて、「もっと愛国心を育む教育を」という意図で「あたらしい教科書」を生み出した「つくる会」を気持ち悪いと思い、あまり好きではない本宮ひろ志だが、今回に限っては応援する。
いいぞ。もっとやれ!