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僕はこんな仕事をしている(00.7.24)

 ゴキブリコンビナートファンのみんな、FROM Aの五月22日号に掲載された僕へのインタビューは読んだかい。え、読んでないって?ダメだなあ。FROM Aちゃんと毎号読まなきゃ。とにかくいい雑誌だからさ。ところでその特集ってヤツがサブカル野郎の爆裂フリーター人生って特集なんだけど。ノルマを課さない劇団ゴキブリコンビナートを経済的にも運営する僕の苦労話が載ってるよ。もちろんファンの皆さんが我が劇団に支払ってくれるチケット代なんかでは、劇場の借り賃等、公演の経費を払ったらもう何も残りはしないんで、食っていくために普段は僕も働いてるんだ。職種は大道具。コンサートやらバレエ公演やらのセットを立て込んだり解体撤去したりする仕事だ。そういうと芸能人に会える華やかな仕事のようだけど、トンカチやバールを腰に下げたただのブルーカラーさ。今回はそんな僕の普段のお仕事の話でもしようか。

 この1ヶ月間、小沢征爾音楽塾のフィガロの結婚というオペラの仕事がずっと続いていたね。大阪とか名古屋にも行ったよ。ウチの会社はオペラの仕事もよくやる。今年は海外の有名なオペラがいっぱい来日する年らしく、秋とか忙しいらしいよ。そこでいつも思うんだけど、オペラって誰が観てるの?まあ、クラシック音楽が好きな人は僕の周りにも君の周りにもいっぱいいるだろうし、オペラ観たいって思う人が世の中にいっぱいいるのは別 に理解できる。君もたまにはどんなものか行ってみようかなとかふと思ったりするかもしれない。そんなときはオペラ専門の劇場、上野の東京文化会館あたりにふらっと出かけてみよう。料金表を観て、君は目を回すだろう。オペラを観るという行為はクラシックのCDを買うような気楽なものではないのだ。僕のついていた「フィガロの結婚」は27000円。これでもオペラとしては安い方だ。海外の有名なヤツ、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場とか、イタリアのスカラ座とかが来日すると4万、5万は当たり前だ。

 ちなみにゴキブリコンビナートの入場料は当日で2500円、僕が客として一番お金を払ったのは渋谷オンエアウェストにPIGが来日したとき払った4000円。まさに10倍ですな。PIGは当時ややマイナーだったが、じゃあ今をときめく有名タレントのコンサートを観に行ってもそんな、何万円なんてことにはならない。モーニング娘とか武道館に観に行っても6000円ぐらいだ。外タレはもう少し高いが、例えば東京ドームのボン・ジョビだって8000円。いかにオペラがけた外れなのかが分かる。僕らがオペラを好きで好きでしょうがなくて絶対観に行こうと思ったら、その日から食生活が変わるだろう。マックの平日半額セールとカップラーメンの毎日。牛丼屋すら行けない。でも、オペラの本当の客層はそんなことをしてる人たちではない。

 では、どんな人たちなのか。すると、僕の貧しい想像力はそこで萎え費えてしまう。毎日カップラーメンじゃないだろう。といって貧乏人が想像する金持ちのステレオタイプで毎日ビフテキとか、そういうのでもないだろう。フォークとナイフで食卓を取り囲む一家、ガキも食事のマナーがちゃんと出来ていて、体とテーブルの間は拳一つ分あいている。親子なのに言葉遣いは敬語。給仕をする召使い。学校へはチョウファーがリムジンで送り迎え・・・それじゃあマンガだよ!

 東京文化会館でオペラを観る階級。多分僕らと同じ日本語を話し、日の丸タクシーばかりでなくちゃんと山手線にも乗り、僕らがよく行くような本屋でちゃんと売っている本や雑誌を読んでいるはずだ。日本では階級の棲み分けが外国ほど徹底していない。だが、彼らは僕らが笑うようなギャグで笑うだろうか。僕らと同じ頻度でコンビニとか行くだろうか。深夜にラーメン屋とか行くだろうか。その辺になってくると分からない。彼らと友達になるチャンスはないだろう。棲み分けが徹底していないと言ったが、それは地理的な棲み分けが曖昧だということで、お互いの生活を見えなくさせる何らかのシステムは機能している。そのシステムの中で自分と似た境遇の人ばかりを見て、「ああ、私は中流だ」と思わせるソフトな管理体制の中で僕らは生きている。仕組まれた中流意識。自分の属する階級以外の階級の存在に実感がもてない。

 仕組まれたとか言うと誰かすごい狡猾な巨悪の根元みたいな政治家の黒幕みたいな人間が僕らの生活意識を裏で操っているような感じだけど、そういうエセ左翼的ものの見方には賛同しかねるね。誰かを悪代官に仕立ててものをいうような政治的言説はとてもつまらないし何も変えはしないだろう。もっとも僕も何も変える気はないけどね。僕は一貫して中流意識なんて嘘だというテーマを自分の作品に盛り込んできたけど、別 にそれを変えていくためにどうすべきとかそういうのはないんだよ。ただ、階級ってのはある。そして僕らの感性そのものが否応なしに自らが所属する階級に支配されていることをただ、示したいだけ。

 オペラを観に行く階級と同義語で美術品を買う階級ってのがあるよね。美術家が生活できるのは彼らのおかげなんだけど、やはり彼らの家には鹿の頭とか虎のあの大の字に平べったくなったヤツとかが飾ってあったりするんだろうか。貧しい想像だね。

 オペラの仕事とかしてるとそんなことをぼんやり考えてしまうね。演歌コンサートの仕事も何度かしてきたけど(加門亮なんて知ってる?)、それは客に対して階級差とかないからね。客が見えない仕事といえばやはりオペラだね。まあ、僕らの立場は舞台監督や美術デザイナーがOKだすような結果 を提出すればそれでいいので、客がどうこうとか現場では関係ないけどね。


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